「眠れませんか?
 悩みごとでも?」

「いえ…そういうわけでは。」

 貴也さんに言えるわけない。
 私が宇佐美くんのところへ行っている時はどうしてるんですか?なんて。

 新しい人が来たら嬉しいですか。

 綺麗な人ですよ。

 心は休まらなくてもきっと…。


 思えば楽しかった佐々木課長…というより貴也さんとの時間。
 宇佐美くんが現れてから楽しめずにいた。

 私はもう佐々木課長のお世話にならない方がいいんじゃないのかな。

 そんなことが頭に浮かぶようになっていた。


「ほら。もっと近づいて。
 心臓の音、聞いてください。
 落ち着きますよ。」

 鼻をかすめる貴也さんの匂いに胸がキュンと鳴いた。
 それでも変わらないトクトクという貴也さんの心音は落ち着く温かさだ。

 いつかこの温もりが私の前から消えてしまうかもしれない。
 そう思うと寂しくなって目の前の貴也さんのシャツにしがみついた。

 夢の世界までは遠くて、眠れない時間は永遠に感じていた。