携帯のアラームが鳴って目を開けると目の前の光景にドキンとして寝起きの心臓に悪い。
 目の前には佐々木課長のはだけた胸元があった。

 アラームを消しても起きる気配のない佐々木課長はバスローブを着ている。

 ものすごく似合ってるんだけど、視界がチカチカしてしまう。
 はだけているのでできるだけ視界にいれないようにベッドから脱出した。

 お風呂上りはバスローブってどれだけ世界が違うの。

 バスローブにワイン…似合い過ぎる光景が目に浮かんでフッと口元が緩んだ。

 その心春の視界にベッド近くにある棚の上のドライヤーが映る。

 どうしてドライヤーが………。

 そう思って、はだけた佐々木課長を見ないように布団をしっかりとかけてから、髪に触れてみた。
 まだしっとりと濡れていた。

「私には濡れたままだと風邪をひくって言うくせに。」

 ドライヤー片手にベッドの脇に座って、思い切って佐々木課長にドライヤーを向けた。
 寝ている佐々木課長はドライヤーをしても起きる気配はなかった。

 よっぼど眠かったのかなぁと思いつつ、ドライヤーで乱れた髪をそっと整えているとゆっくりと目が開いた。

 うわー。整った顔の寝起きの破壊力!

 閉じていた目を開けるだけでキラキラして見える佐々木課長をできるだけ意識しないように普通に口を開いた。

 佐々木課長のすぐ近くに居た自分を少しだけ恨めしく思いながら。

「おはようございます。
 濡れたまま寝ちゃったんですか?
 風邪ひきますよ?」

 こはちゃん…とつぶやいた佐々木課長の顔がみるみる赤くなって、顔を手で隠してしまった。

 え?何?何?
 こっちも恥ずかしいのがうつっちゃうんだけど!!!

 動揺する心春の元に少しだけわざとらしい咳払いが聞こえて、その後はいつもの平坦な声がした。

「中島さん。
 今日は早めに出社するので朝食はコンビニで何か買って行きましょう。」

 それはいつもの佐々木課長だった。



 その後もずっといつも通りの佐々木課長だった。

 夜中に一度起きた時は貴也さんではなく、佐々木課長が『こはちゃん』って呼んでくれたような気がしたんだけどなぁ。

 さっきも『こはちゃん』って聞こえたような……。

 狐につままれたような気分になりながら、早めに出社した職場で仕事を進めることにした。