また静かになったフロア。
 はぁとついたため息がしんとした部屋に響く。

 しばらく仕事を進めても一向に終わらない。
 黙々と仕事を進めるしかない。
 今日はもう帰れないかもしれない。

 不意に携帯が鳴って確認すると佐々木課長だった。

「お疲れ様です。
 中島さんもしかしてまだ職場ですか?」

「え……はい。」

 使えない奴って思われただろうな。
 仕事は頑張りたかったのに……。

 落ち込む心春に優しい声が届いた。

「今日はもうお終いにしましょう。
 明日、一緒に早く出社して片付ければ大丈夫ですから。」

 一緒に……。

 佐々木課長はやっぱり優しい。
 じんわりと心に優しさが広がった気がした。

「急いでください。
 終電なくなりますよ。
 遅いですから駅まで迎えに行きます。」

「え!そんな悪いです!」

 心春の言葉は届くことなく電話は切れた後だった。

 早く帰らないと佐々木課長を駅で待たせることになる!
 急いで支度をして駅まで駆けて行った。



 マンション最寄駅に着くと佐々木課長を探す。
 長身でしかも顔立ちの整った佐々木課長は目立っていて見つけるのは簡単だった。

 ただ「あの人かっこいい〜」と道行く人が話している人に駆け寄る勇気がなかなか出ないだけで。
 躊躇している心春に佐々木課長の方が見つけてくれて歩み寄ってきた。

 見つけた時のにこやかな笑顔にトクンと温かい気持ちになる。

「遅くまでお疲れ様。
 さぁ帰りましょう。」

 自然に手をつながれてドキドキと鼓動が早まった。

 絶対にお酒飲んでる!!!

 それでもつないだ手を振り払えずにいた。

「すみませんでした。
 中島さんが宇佐美くんのことを熱烈な様子で見ていたので、意地悪したくなってしまって。
 あの量が1日で終わるわけないんです。」

 えぇ!
 あれって私がぼんやりしてたせいだけじゃなかったんだ。

 それに熱烈って……。

「中島さん。私は好きなんですよ?
 それなのに他の人を見るような真似……。」

「だったら!
 ………だったら宇佐美くんとも添い寝なんて言わないでくださいよ。」

 思わず出た本音に佐々木課長は目を丸くした。
 佐々木課長というか酔っている時は貴也さんという感じだけれど。

「こはちゃんも嫌でしたか?」

「も?」

「私は嫌でしたよ。」

 もー!!!!!
 佐々木課長と貴也さんは別人みたいだから、意味が分からない。
 急にまた自然な『こはちゃん』呼びだし。

 心春の憤慨した気持ちを察したように貴也さんが口を開く。

「すみませんでした。
 しらふの自分は可愛げというものに欠けていますね。
 だからこそ宇佐美くんのアパートに乗り込んだんです。」

 分からない。
 佐々木課長も貴也さんも分からない。

「とにかくせっかく一緒にいられるんです。
 楽しく過ごしましょう?」

 そう言われてはもう宇佐美くんのことは聞けなかった。
 そもそも酔った佐々木課長が言った言葉を鵜呑みにしていいのか疑問も残る。

 でも、どうしても聞きたいことがある。

「あの………宇佐美くんとの添い寝も続けないといけないんですよね?」

「………そうなりますね。」