忘れてた。そうだった。宇佐美くん。

 メールは陽菜からで、きっと内容は宇佐美くんのことだ。

「あの……すみません。
 友達の彼の知り合いが同じ職場の宇佐美くんだったらしくて、私がここに住むことを知られてしまったみたいで。」

「……そうでしたか。
 先ほどの電話ですね?
 そんな大変な時に母が失礼しました。」

 なんで大変なことって一気に起こるんだろう。
 佐々木課長のお母さんのことも気になるのに、宇佐美くんのことも話さなきゃ。

「今、その友達からメールが来て……。」

「そのようですね。
 よろしければ私にも見せてください。」

 メールを開くと驚く事が書かれていた。

『僕も仲間に入れてください。
 ダメなら2人の関係をバラしますよ?』

 え。どういうこと!?



 意を決して陽菜に電話をした。

『宇佐美です。
 陽菜さんに携帯を借りてます。
 陽菜さんもすぐ近くにいますよ。』

 こんなにちゃんと話したのは初めてだと思う宇佐美くん。
 その彼からであろう先ほどのメール。

「さっきのってどういう………。」

 佐々木課長にも見せたメール。
 電話をかけている今もすぐ近くにいて、電話の声は佐々木課長にも漏れ伝わっている。

『そのままの意味ですよ?
 住まわせたら添い寝してくれるんですよね?』

「そ、そんなわけ………。」

 否定したいのに佐々木課長との関係を聞いていると思われる宇佐美くんになんて言ったらいいのか分からない。

『昨日は佐々木課長のマンションに泊まったんですよね?
 今日の夜は俺ん家でいいですね。
 毎日交代ってことで。』

 何……言ってるの?

『俺のアパートの住所を後でメールしますね。
 メアドも陽菜さんから聞きますけど、問題ないですよね?』

 スラスラと当たり前のように進んでいく話に困惑して佐々木課長を見ると、佐々木課長が「電話代わらせてください」と手を出した。

 代わる直前に『二人の関係をバラしていいならいいんですけど』と釘を刺され「それは困ります!」とだけ言うと佐々木課長と代わった。

 電話を渡すと「佐々木です」と名乗った佐々木課長に宇佐美くんが声を落としたのか心春には聞こえない会話がされたようだった。
 何かを聞いた佐々木課長が目を見開いてため息をついて、こちらをチラリと見た。

「分かりました。
 宇佐美くんも………分かっていますよね?」

『えぇ。もちろん。』

 最後の声だけ聞こえると心春に携帯が返された。
 恐る恐る耳に添えると楽しそうな宇佐美くんの声が聞こえた。

『中島さん。
 あとで俺の家に来てくださいね。』

 それだけ言うと切れてしまった。

 話の流れがつかめなくて困惑していると、佐々木課長が申し訳なさそうな顔で告げた。

「すみません。
 変なことに巻き込んでしまいました。
 宇佐美くんも中島さんに一緒に暮らして欲しいそうです。」

 え。何それ。
 私の意思とは関係なく二人で決めちゃうことなの!?

 何も言えずにいると佐々木課長が背を向けて続けた。

「中島さんがここに住むことが他に知れるのは困ると思いますので。
 宇佐美くんは中島さんに悪いことはしないと………。」

「分かりました。
 ご迷惑をおかけしました。」

 最後まで聞いていられなくて無理矢理に話を終わらせる。

 佐々木課長は何を考えてるの!?

 居た堪れなくて出て行こうとする心春の腕を佐々木課長がつかんだ。

「ま、待ってください。
 宇佐美くんと交代制です。
 また明日には私のとこで、お待ちしてますので。」

 そこまで聞くとこの場にいられなかった。
 佐々木課長がつかんでいる腕を振り払って部屋を飛び出した。