「久しぶりに来たんだから、お母さんと食事しましょ。」
………お母さん!!?
お母さん……ならどうしてこんな内鍵まで掛けて……あぁ、私をお母さんに見せたくなかったから?
ううん。
鍵はたぶん前からついてた……と思う。
固い顔をしたままの佐々木課長が絞り出すように言葉を発した。
その声は掠れていて、心春の胸を何故だか痛くさせた。
「母さんと話すことはない。
来る時は連絡してくれって何度も言ってる。」
初めて聞く敬語ではない佐々木課長の言葉は悲しくなるような声色だった。
「まぁいいわ。お客様もいるんでしょ?
失礼のないようにね。
私はもう少しゆっくりさせてもらうわ。」
足音が遠のいてドアの前から立ち去ったのが分かった。
ただ、マンションからは出て行っていないみたいだ。
「はぁー。あなたが失礼の塊なんだよ。」
長いため息と小さなつぶやきを吐くと、やっと心春の方へ向いた。
疲れ切ったような顔の佐々木課長が髪をクシャクシャとかいて話し始めた。
「失礼しました。母です。
無茶苦茶な人で……。
私の人生をいつでも狂わせるんです。
それで……たぶん反面教師なんです。
私がきっちりしたい性格なのは。」
突然の出来事と驚く関係性を垣間見て、どういう顔をしていいのか分からない。
その動揺が顔に出ていたようで「ご迷惑をすみません」と掠れた声をかけられ、心春は首を横に振ることしかできなかった。
「母はもうこちらへの興味は失せてますので、少しくらい話していても大丈夫です。」
そう促されて小さめの声を発する。
「あの……大丈夫ですか?
私なら平気ですので、お母さんとお食事でも……。」
佐々木課長は驚いたように目を少し見開いたあとハハッと乾いた笑いをたてて、ドサッとベッドに腰をおろした。
「私を彼女に引き渡して苦痛を与えようとお思いでしたら、ご自由にどうぞ。」
「苦痛って………そんなつもりは……。」
「でしたら、このままここに居させてください。
中島さんにはご迷惑をお掛けしてますけど、この状況で中島さんが居てくださることが私には何よりの救いです。」
そんなこと言われたら何も言えなくなってしまう。
「中島さんにここに住んでいただくなら、このことをいつかは話さなくてはと思っていましたが、話す前に突然ですみませんでした。
本当にこちらの都合など考えない人で。」
佐々木課長の体の前にある握りしめた手と手がギュッと力が入るのを見ているのが少し辛かった。
不意に玄関のドアが閉まる音が聞こえて、嵐のようなお母さんは帰っていったようだった。
「今日は意外に早く帰ったみたいです。
それでもまた戻ることもあるので、しばらくここに居ても構いませんか?」
頷いて見せると「見苦しいところをすみません」と再び謝られ、首を振ると俯いた。
佐々木課長を見ていられなくて俯いたまま口を開いた。
「私も………私が空気みたいになったのは、お母さんに遠慮したことがきっかけなんです。」
「え?」
驚く佐々木課長に続きを話さそうと口を開きかけたところに手の中の携帯がブーッと音を立てた。