食事を楽しもうと決めて食べる料理はどれも美味しかった。

 片付けを済ませ、そろそろ寝ようかとなると改めて『添い寝』をするんだとにわかに緊張する。

「こはちゃんは寝る時間でしょうか。
 寝る時間はご一緒するのですよね?」

 またしても子ども扱いされている気がして、ムッとしつつも、やはり一緒に寝ると言われると緊張する。
 それでもここまで来て、やっぱり無理です。とは言えない。

 こわごわ貴也さんの部屋に入って促されるままベッドに横になった。
 できる限りベッドの端に体を寄せると貴也さんもベッドに体を入れた。

 すぐ隣に感じる貴也さんの温もり。

 前みたいに鼓動に耳を傾けるわけでもないから若干の距離はある。
 それでも同じベッドですぐ隣に寝てるのだから寝返りを打たなくても触れる距離にいた。

 緊張を抱えて目を閉じていると、ふいに貴也さんが切り出した。

「何を不安に思ってますか?」

「え………。」

「心配事があるから食事中、上の空だったんじゃないですか?」

 なんでもお見通しなんだなぁ。
 少しだけ悔しい。

「もし職場の誰かに佐々木課長のマンションに住まわせてもらってるなんてバレたら困るんじゃないかと………。」

「佐々木課長じゃなくて貴也さんと呼んでくださるのではなかったんですか?」

「そ、そうでしたけど………。」

 職場での佐々木課長を思い出すと自然と佐々木課長と口から出ていた。

 職場の佐々木課長、それに他の職場の人達。
 みんなを思い浮かべると、やっぱりここに住まわせてもらうことが間違っているような気がしてくる。

 誰かに知られたらどうしよう。
 知られた時はなんて言ったら………。

 それに………。

「どうしてここまでしてくれるんですか?」

 年を重ねて人肌恋しいとか、高校の頃の私に感謝してるとか、色々と言われたけど、それにしてもここまでしてもらう理由になるのかな。

 何か明確な答えがもらえる期待なんてないままに貴也さんの返事を待った。
 
「それは……。」

「それは?」

「好きだからです。」

「す………。」

 サラッと言われた言葉に時間差で胸がキューッと痛くなる。

 ものすっごく明確な答えの気はする。
 それなのに全くもってストンと心に降りてこない。

 陽菜に言われ過ぎて、とうとう幻聴が聞こえちゃったんだ!

 頭をぐるぐるさせる心春に軽いクククッという笑い声が聞こえて憎たらしく感じた。

「もう一度言いましょうか?」

「い、いえ!大丈夫です!!」

 何、これ。
 さすがにからかわれてるんだよね?

 どんどん熱くなる顔に手を当てられて、すぐ隣の貴也さんの方を向かされた。
 ベッドでは身長差も関係なく、すぐ近くにある整った顔にドキッとする。

 絡んだままの視線の先にある真剣な瞳からは逃れられない。

 見つめ合った状態で向かい合う整った顔から言葉が発せられた。

「こはちゃん。好きです。」

 にっこり微笑まれて、こっちはつられた笑顔がひきつる。

 鼓動はドキドキと加速して、頭の片隅に追いやられていた『こはちゃんの髪は前から触れたいと思っていました』の言葉が蘇って『こはちゃん好きです』の言葉と一緒に頭の中で何度も再生された。

 貴也さんの低音のいい声で。
 そしてもちろん、整った顔立ちの口先から言葉がこぼれる映像付きで。