特別な君のために


「はい」

私も静かに、だけどはっきりと返事をしたつもり。

解ってる。合唱の大きなコンクールは、高校生まで。

同年代の仲間と、必死に練習するのもあと少し。

初秋の大会が終わったら、すぐに引退して受験勉強へ突入することになるのだから。

それでも、他の部活より引退の時期はずっと遅い。

中には、二年のコンクールで引退する子もいるほど。

私は、あと四か月で引退する。



後悔しないために。

今の自分ができる最大限の努力をしよう。

練習を一度放棄してしまったことはもう、仕方がない。

これからは毎日、余計なことを考えずに歌おう。


舞台に出たら、勝負できるのはレギュラーの四十人と指揮者と伴奏者だけ。

あとは何も表に出ない。

私の家庭環境がどうであろうと関係ない。

みんなと気持ちを重ねて、ハーモニーを創り出す。

そのことだけに集中しよう。


奏多先輩が、ドアを開ける。

そして、私を先に通してくれる。

「頑張れよ」の声と共に。


「遅れてすみません」

部長の譲(ゆずる)君に謝ると、彼は笑ってこう言った。

「美冬がいないと、メゾソプラノがグダグダだ」


「待ってたよ!」

「骨折したんだって!?」

「どこどこ? うわ、右手、やっちゃったんだ!」


仲間がみんな、私を取り囲んで騒いでいる。

でもその中に、なるみはいなかった。