特別な君のために


私の話に笑いながら、時々一緒に愚痴を漏らしながら頷いてくれた奏多先輩。

先輩が在学中は、二人だけで話したことなど、ほとんどなかった。

勧誘された日が唯一、だったような。

それが今になって、一緒にバスに乗り、部活へ参加することになるとは。


校舎の四階へ向かう階段を上りながら、次第に大きく聴こえてくる歌声に少しだけ緊張する。

部活をサボったことなど、今までなかった。

勧誘されたその日から、必死に真面目に参加して、とにかく上手く歌えるようになろうと努力した。

それなのに、あんなことがあったせいで……。


「お~、懐かしい。やっぱり、この必死さがいい」

スリッパの音を響かせながら、軽やかに階段を上る奏多先輩が嬉しそうに言った。

「え?」

「うちの大学の合唱部、すっげーユルいから。それはそれで楽しいけど、競い合って上達しようっていう熱意はウザがられるからさ」

「そう、ですか」

「必死になれるのも、コンクールっていう目標があるからだろ。大学生になると、そこまでの目標はないんだ。定演と慰問と時々どっかの助っ人で参加するコンサートくらいしかないからな」

先に上っていた先輩が、四階のフロアで足を止めてくるりと振り返った。そして。

逆光の中、静かに諭(さと)された。

「今しかできないんだぞ、本気で歌うこと」