特別な君のために


「どうして?」

「スマホを貸してって言われた時、断って両手でバツ印を作ったんです。その隙に私のポケットから勝手に持って行かれて、追いかけたらこうなりました」


美冬は包帯が巻かれた右手中指をひらひらさせて、あははと笑って見せてくれた。

笑顔とは対照的に、多分今、ものすごく心が痛いのだろう。


「しかも運の悪いことに、こういう時に限って電話がかかってくるんですよね。なるみからの着信に妹が勝手に出て、自閉症特有の喋り方で自分語りを始めちゃったんです。もう、大変でした」

「それは確かに大変だったね。なるみには妹の障がいのこと、話してた?」


俺は、母さんのことは高校時代、誰にも話せなかったけれど。


「いいえ。話す必要もなかったし、妹は私達と違う学校に通っていたから、接点もないと思っていたんです。でも、一年のランちゃんは、妹と同じ幼稚園だったって。
昨日、私が通院で学校を休んでいる間に、多分みんなに妹のことは知れ渡っちゃったと思います」