「ダメっていってるでしょ!」

「千春、お姉ちゃんに返しなさい」

お父さんも千春を説得する。けれど千春は全く聞く耳を持たない。

「かーしーてって、いったもん!」

千春はまた、ダイニングテーブルをぐるりと走り回り、お味噌汁をよそっていたお母さんの後ろをすり抜けて、洗面所に閉じこもろうとした。

「いいよって言ってないから!」

私もすぐ後ろを追いかけ、千春が今まさに閉めようとしている洗面所の引き戸にすがりついた。

千春が引き戸を閉めるタイミングは、私が手を伸ばしたタイミングとほぼ同じだった。


ばしん、という音が聴こえたと同時に、私の右手の中指の先がまるで爆発したかのように熱くなった。

「……っ!」

声を出せないほどの熱さ、いや、痛みに、私は床に膝をついて転がる。

キッチンの白い床に、赤い液体がぽたぽたと流れてきた。

「美冬!」
「美冬、どうしたの?」

お父さんとお母さんがほぼ同時に叫んだ。