いつからだろう。
家を出たい、と思うようになったのは。


住宅街の一角で、ぽつんと立つ我が家を振り返る。

白い外壁に茶色い屋根。木造二階建ての一軒家。
そこがあたしの育った場所。


こうやって外から見ると、びっくりするほど「普通の家」。
あたしの家の周りには、ほとんど同じデザインの家々が立ち並んでいる。

そのうちの、ひとつ。
とりたてて目立つ特徴もない。ただの家。
ただの家族が住む、家。住んでいるように見える、家。


別に、これといって嫌なことがあったわけではない。

ただ、いつからか、家にいると感じる息苦しさ。
喉の奥に、何かがつっかえているような感覚。
人がなにかを苦手になるのに、理由なんて必要ないんだと思う、きっと。


歩いて2分くらいの古びた公園。
あるのは乗るたびキイキイ鳴るブランコと、チカチカ点滅する街灯。それに小さなベンチだけ。

ここがあたしのいつもの逃げ場。


ベンチに腰を下ろし、ふう、と息を吐き出す。
胸の中に居座っていた何かが少しだけ軽くなったような気がした。

スマホを取り出し意味もなくSNSをチェックする。
画面を更新して、返信して、更新して。

SNSって偉大だよ。ひとりでいても、まるでひとりじゃないみたいな気持ちになれる。
結局画面を閉じれば虚しくなって終わるんだけど。


時刻は夜の11時過ぎ。
こんな遅くに会えるほど仲のいい友達はいないし、構ってくれるような彼氏だっていない。


八月になってから生温さを増した風が頬を撫でる。
涼しさなんて感じない。不快だ。
でも、この不快さは、嫌いじゃない。

額に浮かんできた汗をぬぐって、いつも通りスマホのメモ帳を開いた。

他人には絶対に見せられないあたしの秘密。
それがこの、メモ帳にびっしりと書き込まれた言葉たち。


あたしは、現実から目を背けるのが昔から得意だった。
その結果が、コレ。

小説、とでも呼べるのか。
わからないけど、あたしの現実逃避を文字にして綴ったもの。

趣味、というほど大それたものではないけど、あたしの一番の「気晴らし」がコレだった。