「最後に一つ、榛原さんは社長が怖いですか?」

「怖いです」

「そうですか」

「でもそれ以上に田神社長は優しいです。多分私が今まで知った家族以上の誰よりも優しい人だと私は思っています」


知れば知るほどに田神社長の優しさを知る。

それは怖さを吹き飛ばしていく力を蓄えて。


「それはそれは…。最高の誉め言葉ですね」

「そうでしょうか」

「社長には内緒にしておきます。知れば調子に乗りますからね」


そう言って笑った田神室長は本当に私を駐輪場まで送ってくれた。

何故だか重役になった気分ですよと冗談で言った私に、


「榛原さんは誰よりも重役ですよ」


――と、真顔で言うものだから私は返事に困ったのだった。