「それでいい、貸して」


由梨がほのかの手から体操着をはぎ取ると、自分と麻梨のカバンを拭きはじめた。

教室にいる何人かがこの様子に気がついて見ているし「ひどいな」という表情を浮かべているけれど、誰も何も言わない。

ほのかも同じように何も言わずに、雑巾のように扱われる自分の体操着を黙って目線で追っているだけで。


「こんなもんかな。……はい」


由梨に湿った体操着を突き返されたほのかは、笑顔を作りながらうなずいていた。

どんなに酷いことをされても、これまでほのかは怒ったことがない。きっと他の生徒がほのかの立場になったとしても、やっぱり誰もが笑っているんだと思う。

この学校で麻梨と由梨に何かを言える人なんて、いるはずもないから。