「…こん…………たら……にな…ぞ」


かすかに聞こえてくる声に、ニカは上体を起こす。

ニカのいるこの場所は王家により定められた動物たちのための森であり、町の人が立ち入ることはほとんどないはずで、だからこそ自然の声しか聞こえないこの場所がニカは大好きだった。

耳を傾ければ、それはどうやら少し奥の方から聞こえてくる。

賊かもしれない、と懐に忍ばせた短刀を押さえながらゆっくりと声のする方へと向かっていった。


長い草をかき分けながら進んだ先には、胡座をかいて座る青年と、その周りに集まるたくさんの動物たち。


黒髪に赤い目をした青年は、髪と同じような漆黒の衣をまとって、伸ばした腕で小さなキツネを抱きかかえている。

子ギツネに目を合わせながら語りかける青年は、まるで動物と話しているようでニカの心は興奮で大きく弾んだ。


まさか動物と話せる人がいるなんて!!


仲良くなりたいという気持ちが先走り、上体が前へと傾いていたニカは、前のめりになりすぎてバランスを大きく崩す。

大きく草を揺らしたその音に反応した動物たちは驚いて逃げ、青年はこちらをジッと見つめていた。


「…こんにちは!動物とお話してたの?」


目があった青年に話しかけながら立ち上がり、土で汚れてしまった洋服を見て軽く身なりを整える。

そして青年に視線を戻すも、青年は先程の場所にはおらず、道なき道を行く黒い背中が今にも遠のいていた。