姫様と魔法のキス



「嫌なら断ればいいのに」

「嫌だなんて言って断ったら、お父様にも国の皆にも迷惑をかけてしまうわ!だから、それは出来ないの…」


この結婚自体が、王子が婿養子に来るという特殊なもので、ニカしか子供がいないアジーン王国にとってはとても有難いことであった。

それなのに断ってしまうとなると、もうこんな良い条件の結婚には恵まれないだろうし、何より姫の我儘で結婚が破断してしまったとしたら、ドヴァー国との国交が途絶えてしまう危険性がある。

そのことを考えると、ニカには結婚を断るという選択肢は存在しなかった。


「今度、婚約パーティーが行われるわ。その時に正式に結婚が決まってしまったら、本当にアロガンと結婚しなくてはならないの…」


ただでさえパーティや舞踏会といった華やかな催しが好きではないニカは、婚約パーティーだと思うとなおのこと行きたくない。

そして、その億劫な感情は父王もトミーもブラウも、誰1人知らないのだ。

どうにか出来ないかと悩んでいるところで、ふとレゼの赤い目と目があった。


「そうだ、レゼも婚約パーティーに来てくれたりしない…?」


自分の本音を知っている人が近くにいるだけで心強い。

そのことに気付いたニカはレゼの様子を伺う。レゼはその赤い目をパチパチと瞬かせると、ニカの青い目を覗いた。


「それはちょっと…」

「やっぱりそうよね、ああいうのは息苦しいし行きたくないわよね」


断られると思っていたため、やっぱり1人で臨まなきゃいけないのだとニカはため息をつく。

そんなニカの落ち込んだ姿を見て、レゼはつい言葉を続けた。


「…どうしてもっていうなら行ってもいいけど」

「ほんとに!?来てくれるの!?」


パァァっと顔を明るくさせたニカに、レゼは無言で頷く。

レゼが付いていてくれることに心底安心したニカは、何度もお礼を言った。




.