「先程は大兄様が変なことを仰ってすみません。あの、間違いではないのですが、いきなりあんなことを…」
「え、あ、あぁ気になさらないでください。私も気にしないように致しますので…」
舞踏会で一目惚れをした。
という言葉を思い出し、ニカはそれを社交辞令のようなものだと認識し対応する。
しかしその態度にアロガンはぐっとニカとの距離を詰めて来た。
「気にされないと言うのもまた少し寂しいです」
ニカの顔の横に手を伸ばし、壁に手をつく。
そして、顔が近づいてきたと思うと、一瞬その距離はゼロになった。
「今みたいな可愛らしい反応をして下さるととても嬉しいです」
すんなりと離れたアロガンに、ニカは今起きたことを整理するため、赤い頬を携えながら咄嗟に感触の残るその唇に触れていた。
その姿にアロガンは微笑を漏らした。
「ニカ様、これからのことを考えて、敬語はなしにしませんか?そして、出来れば敬称も控えさせて頂ければと思うのですが…」
「も、もちろん」
「ありがとう、ニカ。私のこともアロガンと呼んで貰えると嬉しい」
アロガンから差し出された手を握り返す。
爽やかに笑うその笑顔はとても魅力的なはずなのに、ニカはなぜか素直に素敵だと感じなかった。
.


