これを聞いた芦名は岸島に対して、

「岸島さん、言われて腹が立たないのですか」

といきり立ったが、

「芦名どの、居合は鞘のうちが勝負なのだよ」

とだけ言った。

確かに居合は刀を先に抜くと不利になる。

つまり。

岸島の目から見て加納は、鞘から刀を抜いているようにうつっていたようで、

「芦名どの、あれは言わせておくに限る」

とのみ言い、帳簿に目を落とし再びそろばんをはじきはじめたのであった。