○校正案3(三人称)

【いつも頭上に有った青空は、あの世界と共に壊れてしまったのだろうか】

　どんよりとした空気は、心にまで陰を落とす。彼は暗い空を見やって、それと気持ちを同じくしていた。

「お兄ちゃん、どうしたの？」

　そんな空気を打ち消すかのように、可愛らしい声がした。見ると栗色の髪を2つに結った、7・8歳位の少女が立っている。

ほんのり薄桃色のワンピースに、白いボレロを羽織った少女。紫色の大きな瞳をくるくると動かして、ただなすすべもなくモジモジとたたずんでいたが、やがて決心したように口を開いた。

「もうすぐ雨が降ってきちゃうよ。お家に帰らなきゃ」

　拙い口調でたどたどしくではあるが、彼のことを気遣っているその心根は見てとれる。

【ア……メ……？】

　彼は首を傾げた。

「傘、持ってる？　無いと濡れちゃうよ」

　少女は心配そうに彼を見上げる。彼はまた首を傾げ、そして横に振った。

【アメってなんだろう……カサってなんだろう】

　物言わず、首を動かすだけの彼を不思議に思ったのか、少女は小さな声で訊ねる。

「……お話……できないの？」

　その通りだった。喋り方を、声の出し方さえも彼は知らない。小さく頷いた彼を見て、少女の表情がみるみる曇っていく。まるでこの曇天のようだと彼は思った。

「ごめんなさい」

　少女は消え入りそうな声で呟く。

【謝る必要なんてないのに】

　そう思っても彼は伝えるすべを知らない。その代わりに少女の頭を優しくなでている。そんな彼と目を合わせた少女は、顔をほころばせた。

【今自分は……笑っている？】

　彼が少女の表情に温かいものを感じたその時。

　ポツリ

　空から何か降ってきたので、彼は驚いて空を見上げた。空のいたるところから透き通った線が真っ直ぐ落ちてくる。

そしてそれは何かにぶつかると消えて無くなり、代わりにその色を濃く変えた。

【冷たい……知っている。これは……水……？　これが……アメ……？】




→→→

同じ状況を出来るだけ違う言葉で言い分け、色を塗り重ねました。

地の文の迷いを無くして、彼の迷いを際立たせました。