評論&弄くりノート >兼足跡帳<

※オリジナル2※

ふわりと、髪がそよいだ
見えた髪は砂漠の砂のような色だった

…なんだろう、これ

風?
空気の動きが、不思議でたまらない
初めての感覚のはずなのに、“風”が何か知っている

今まで、ずっと四角い世界にいたから
風なんて吹かない
動いているのは、
自分たちだけだった

空を見上げると、
どこまでも続く雲
太陽は出ておらず、黒い雲が空を覆っていた
いつも…
晴れていたのに

首に下げたネックレスが、ちゃりっ、と音を立てた
その音で初めてネックレスをしていることに気がついた

細い銀の鎖に、少し色がくすんでしまった銀の指輪がついている
宝石はついておらず、代わりに細かな装飾が彫り込まれていた

『あなたがもっていてね』

脳裏に、誰かの声

大切なものだった
大切な人だった

守れなかった
ずっと、そばにいてあげることができなかった

誰かから預かった、記憶
指輪が持っている、だれかの記憶
誰かの、思い出

自分が誰かも、どこからきたかも覚えていないというのに、誰かの記憶は覚えている

頼りになるものなんてひとつもない
あるのは自分のこの身体と誰かの小さな指輪

これから、どうしよう
行くあてもない