カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。



「あの!」



 わたしは後ろを向いて仕事に戻ろうとしていた塩谷くんを呼び止めた。



「はい。もう綺麗になってますよ」

「そ、そうじゃなくて……」



 恥ずかしい記憶を残して、塩谷くんを行かせたくない。何か会話をして忘れてもらわなきゃ!



「ここってデザート類はないんですか?」

「あ。よく聞かれます」



 彼は困ったように頭を掻く。本当によく聞かれるみたい。


 よく店内を見てみれば、男性客が多い。口コミであまり広がらないのも納得がいく。



「やっぱりデザートはないの?」

「あるにはあるんですけど、これは僕だけでは……」



 わたしはメニューを手に取ってみるけれどやっぱりどこにも書いてない。



「裏メニューみたいなもの?」

「樹さん……シェフに聞いてみます」



 塩谷くんはすぐにいなくなった。