カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。



「いかがですか?」

「あ。さっきの……」



 ずっとわたしに付きっきりみたいな感じで、注文から今に至るまで気にしてくれている。
 これはお店のやり方なんだろうか。



「どうぞ。食後の珈琲です」

「ありがとうございます」

「塩谷《しおや》瞬《しゅん》。二十八歳、独身です。昼間にバイトしてるんですよ」



 彼は聞いてもいない自己紹介をしてにっこり笑う。



「あ。同い年」

「そうなんですか? 嬉しいな! また来た時には話しかけてください。僕が心を込めてお相手します」



 爽やかに宣言した塩谷くんが、わたしのすぐ近くに膝を着いて座った。



「失礼ながら、その。唇の端にケチャップが……」

「はっ! え……」



 慌ててナプキンで拭いてみると確かにケチャップがある。



「あ、あの! す、すみません。ありがとうございます!!」



 なんという恥ずかしい姿をしていたんだろう。ランチに夢中になりすぎてどうするのよ。


 腹の音に続き、また彼の前で恥ずかしい思いをしてしまった。