「違う」
「なにムキになってるの?」
「なってねーよ!」
「なんでそんなに嫌うの!」
屋島さんはため息をついた。
「言っただろ。お前が女だからだ」
「え? 屋島さんさんって、そっち系?」
「違う!!」
「じゃあ――」
「好きな女は一人だけいた」
勢いに負けたみたいで、屋島さんが呟くように言った。どんな表情をしていたのかはわからない。
ただ、何となく追求してはいけないような気がして黙り込んだ。
生ぬるい風が吹き込んでは去っていく。空は曇り、どことなく暗くて寂しい空だった。
やがて地面を濡らす雨に屋島さんは窓を閉めた。急に静かになった車内。
フロントガラスにあたる静かな雨。
ゆっくり動くワイパーの音。
とても悲しげなBGMが響いていた。



