絵里花のこの恋を発展させるためには、どうしたらいいか……。
学生時代にはそれなりにモテて、何人かと付き合った経験のある絵里花にも、それは全く見当がつかなかった。

それで、毎日渾身の力でオンナを磨いているつもりなのだが、それがいっこうに史明には響かない。粗は探してくれるのに、オンナの部分は見てくれない。

そもそも、史明が歴史以外に心を奪われることなんてあるのだろうか……?
史明が恋をして、誰かを愛することあるなんて、絵里花には想像もできなかった。


史明には眼中に入れてももらえず、絵理花の想いばかりが募っていたある日のこと、普段は人気のない収蔵庫が、花が咲いたように明るくなった。
地元の大学で歴史を研究している女子大学生が、この歴史史料館の見学に来たのだ。


「それじゃ、岩城さん。ここは、お願いするよ?」


収蔵庫の案内は、いつもここに詰めている史明に託された。

普段、絵里花には無愛想極まりない史明が、大学生の女の子相手に、満足な案内なんてできるわけがない。
……と、訪ねて来た女の子の可愛らしい容姿をチラッと確認しながら、絵里花はそう思って、自分の胸騒ぎを宥めた。


しかし、実際はそうではなかった。
そこで遭遇したのは、かつてないほど饒舌な史明だった。