「もう決めたことだし、後悔なんて微塵もない。だから君も、もう迷わなくていいし、泣かなくてもいい」


史明はそう語りながら、絵里花の頬に光っていた涙を両手で拭い、その頬を包み込んだ。

それから二人に言葉はいらなかった。
史明の想いを受け取って、絵里花が瞳を閉じると、史明はその唇にそっと口づけた。

夢を見ているような幸せで柔らかい闇の中で、絵里花は史明の背中に腕を回し、その想いに応える。

一度離された唇は、今度は絵里花の方から重ねられ、二人はやっと解き放たれた想いのままに、収蔵庫の棚の陰で何度も唇を重ね合った。


長い長いキスの後、絵里花は目の前にいる史明を見つめて、ニッコリと綺麗な微笑みを見せた。すると史明も、その表情にジッと見惚れた後、同じように優しく微笑んだ。


「……さあ、そろそろ仕事に戻ろうか」


史明がメガネをかけながらそう言うと、絵里花も頷き、いつもの史明を見てフッと息を抜いた。


二人で作業用のテーブルにまで戻って、席に着く。それからまた、静寂の中に紙と鉛筆の擦れる音だけが響き始めた。