「ごめんね、フローラ。」


王を見送った後、隣にいた王妃が呟いた。
どうしたの?と尋ねると、王妃は口を開いた。


「本当は普通と女の子として生きてほしいと思うのだけれど、この“王族”としての鎖は一筋縄では解くことができない。生まれた時からこの鎖とともに生きていかなければならないあなたを想うと…。」


そこまで言うと、王妃を固く口を結んでしまった。
自分の責を悔いているのだろうか。


もともと王妃は王族ではなく、貴族生まれであった。


舞踏会に参加した際、同じく参加していた現王に一目惚れされたらしいことは知っていた。


「自分の境遇を呪ったことはありません。私は私を心から愛してくれる父と母の子どもで本当に良かったと思います。心から。だから、自分をそんなに責めなくてもいいのですよ、お母さま。」


王妃はありがとうと口を開くと同時に、激しく咳き込んだ。


「ほら、お母さま。ご自分の病気もそのような気から悪化させてしまいますよ。お部屋に行って休みましょう!」


フローラは母の背中をさすり、手を引いて寝室へと案内する。


「ありがとう、フローラ。ここまでくればもう大丈夫よ。」


フローラの手から王妃の手が離れていく。
フローラは心配であった。その王妃の手が日に日に冷たくなっていることに。


「お母さま、本当にだいじょう「大丈夫よ。」


フローラが言い切る前に王妃の言葉に遮られてしまった。
王妃はフローラの金色の髪を撫でる。


「あなたが真っすぐに育ってくれて本当に良かった。あの言葉、王にも聞かせてあげたいほどよ。おやすみなさい、愛しい子。」


王妃の手がゆっくりと金色の髪から離れていった。
フローラの金色の髪は、赤く染まる日に照らされ、存在を強調していた。