「お父さま、ごめんなさい。私たちはたった2人の家族なのに、お父さまの悲しみを分かってられなくて。私だけがこんなに悲しい・苦しいのだと思っていました。お母さまが亡くなってからも執務をこなすお父さまを、どこか非難していました。」
王妃の葬式が終わってからすぐ執務を始めた王。
その背中に、私はいつの間にか王に対する怒りを覚えた。
愛する人が亡くなったのに、仕事が優先なのかって。
家族より国民を取るの?って。
「でも違った。お父さまは、お母さまが愛したこの国を守ろうと必死だったのですね。執務を行うことによって、王妃が亡くなった現実を逃避していたのですね。」
王の顔は見えなくとも、私の言葉が王の胸に届いていることを、私の頭に添えてある手から伝わった。
「お父さま、泣いてもいいのです。今はただの家族なのですから。たった2人の同じ人を愛した家族なのですから。」
王は私を力強く抱きしめた。
そして、声を荒げて泣いていた。
王が声を出して泣く姿は、初めて見た。
家臣も驚いたようであった。しかし、どこかほっとした顔でもあった。
私は決めた。
人を愛することを辞めないと、しかし、本当に大切な人はもう二度ど作らないようにしよう。
王の傍で、王妃が愛したこの国を守ろうと。
それは、満月がきれいな夜のことであった。

