「おかえり。」

 千紗が帰ってきた。
 すぐに抱きしめると「もう」って困った声なのに嬉しそうな千紗にキスをする。

「お風呂にする?ご飯にする?
 それとも………俺?」

 からかいの言葉を投げれば赤い顔をした千紗が「裕にする」なんて言うから堪んない。

「ダメー。
 ご飯食べてお風呂に入ってから。」

 俺だってすぐにでも……って思うけど、千紗は可愛くて途中で離したくなくなるから、お楽しみは一番最後!

「もう。なら聞かなきゃいいのに。」

 ふくれっ面の千紗が可愛くて、ついキスをしてしまう。
 やっべ。だから止まんないって。

「ママおなかしゅいた。」

「あ、うん。ごめんね。
 ご飯しようね。」

 急に現実に引き戻されて、つい千裕(ちひろ)をにらむ。

「ママー。ちーもチュー。」

 これ見よがしにキスをせがむ千裕に大人気なく嫉妬する。

「千紗ー。俺にもー。」

「あぅーあぅー。」

「はいはい。ごめんねー。
 紗裕(さゆ)もミルクですねー。」

 紗裕に出てこられたら引っ込むしかない。
 なんとなく千裕を見るとプイッとそっぽを向かれた。

「なんだよ。ちー。俺の奥さんだぞ。」

「ちーのママ。」

「はいはい。もう喧嘩しないの。
 裕が働き始めたら2人ともを朝から預けるなんて……私、仕事辞めてもいいんだよ?」

 俺が働いて帰ってきたら千紗がご飯を作って待ってくれてて……。
 ものすごくいい光景なのに「ちーママといたい」っていう千裕の声に邪魔される。

「ダメ!そしたら千紗はちーとずっと一緒なんでしょ?
 そんなの耐えられない!」

 クスクス笑う千紗がちょっとだけ憎たらしい。
 だってこの笑い方、俺のこと子どもって思ってる笑い方だ。

「お母さんがまた子ども達の面倒見てくれるって。
 久しぶりにデートしましょう。」

 そんなこと言う千紗に素直に喜べない。
 それで喜ぶと思われてるのが……さ。

 それなのに耳元でささやかれた言葉に一気に気持ちが高揚する。

「私も裕に甘えたいから。」

 少し照れた顔の千紗を後ろから抱きしめる。

「じゅるーい!ちーもー!」

 賑やかで慌ただしい毎日は、思い描いていた千紗との生活とは若干違うけど……。

 俺は幸せを噛みしめるように、千紗の頭にキスをした。
 これからもずっと一緒にいられるようにって願いも込めて。