思えば俺はその時から千紗のこと……。

 ハハッ。名前しか知らないどこの誰だか分からない奴に……。
 俺こそ小学生みたいだろ。

 驚いている千紗に話を続ける。
 あと少し話せば、もう全てが終わる。

「ずいぶん経ってから浩大が家で「新しい女ができた」って話の中に千紗が出てきたんだ。」

 当時のやりきれない思いが蘇りそうになって、手を握りしめる。
 手のひらの痛みが自分を正気でいさせてくれた。

「俺、何もできなくて、浩大に俺の周りをぐちゃぐちゃにされてばっかでさ。
 千紗のこと大切にしてるんなら、それでいいと思ってた。
 なのに…………。」

 何もできない俺は浩大がうらやましかったんだ。
 思えば俺は浩大になりたかった。