泣いている裕になんて声をかけたらいいのか分からない。

「私は裕のこと好きだよ」なんて軽々しく口にしていいのか………。
 なにより、裕はそういう話は一切していない。

 ただ、私のことは浩大の彼女だったからって話だけ。
 浩大の彼女じゃなかったら…………。

 そういうことなのかな。

「俺、玖美と付き合ってる………って言っても部活で忙しいし、それが終われば受験勉強で忙しくて。
 会えないからって最初に言ってあったんだ。
 それでもって言うから付き合うことになった。」

 急に話し始めた玖美ちゃんとの馴れ初め。
 どんな思いで聞いたらいいのか分からない。

「そしたら………たまたま浩大といる時に玖美に会って。
 そのまま持ってかれた。」

 つらそうなのかと思えば、それほどつらい表情をしていない裕を不思議そうに眺める。

「ハハッ。そんな目で見ないでくれよ。
 俺、たぶん玖美のことそんなに好きじゃなかったんだ。
 だからそれほどなんとも思わない自分にその時だって笑っちまった。」

 じゃ………どうして私と会ってまで浩大に仕返し…………。

「で、話し合ったんだ。
 駅のホームで派手にやり込められてさ。」

 ハハッと力なく笑った裕は今度はつらそうな顔をした。

「散々な言われようで、玖美が行った後も呆然と突っ立っていら、ハンカチを渡されて………。」

 ハンカチ………。

「泣いてもいいと思いますって。
 ハンカチ差し出してるあんたのが泣きそうだけど?って、つっこみたくなるくらい震える手でハンカチを渡されたんだ。」

 それって……………。

 驚いていると裕がこちらを見据えて口を開いた。

「千紗に。まだ俺は千紗って名前も知らなかったけど、ハンカチに書いてあった。
 小学生かよ。ハンカチに名前書くとか。」

 ククッって笑う裕が引き出しから大切そうに出してくれたハンカチは紛れもなく私のだった。