甘えられなさそうな千紗を後ろから抱きしめてみた。

「ほら。こうしたら暖かいでしょ?」

 耳まで真っ赤にしている千紗にささやくと「ひぃっ」って小さな悲鳴が聞こえた。

 やっべ。いいオモチャ見つけたかも。

 いたずら心が芽生えて、試しに提案してみた。

「甘えるのが苦手なら、俺が甘やかしてあげるよ。
 それなら受け身でも大丈夫だからキミでもできるんじゃない?」

「……。」

 返事がない千紗に、あぁと気が付いて腕を離して解放してあげた。
 抱きつかれたまま会話とか、この子にはハードルが高かったよな。

 それでも真っ赤にした顔で口をパクパクさせているだけ。
 笑っちまうよな。

「ごめん。ごめん。
 そんなに嫌だなんて思ってもみなくて。」

 一応、謝ってみると思わぬ返事が返ってきた。

「いえ。…嫌では……なかったです。」

 ハハッ。マジでこの子が『つまらない女』なわけ?
 俺には超おもしろいんだけど。

 嫌じゃなかったんなら。と、もう一度、腕を回そうとしたら遮られた。

「でも、もう結構です。」

 仏頂面で言われて吹き出しそうになる。
 でも、そこは我慢してっと。

 わざと注意してみる。

「ほら。そういうのがダメなんだろ。
 せめて…そうだな。断るの禁止。」

「え?そんなの…無理…デス。」

 なんだよ。
 十分、可愛いじゃん。この子。

 背が低くて、華奢で、ちょっと恥ずかしがり屋。
 柔らかそうな細い髪が肩の上で揺れる。

「大丈夫だって。
 次からは、もうちょっと軽いのから試すから。
 んー例えばほら。」

 俺は着ていたコートのポケットを開いて見せた。

「ここにお邪魔しまーすしてもいいよ?
 っていうか、しなさい。」

 手をつかんで、自分の手と一緒にポケットの中に入れる。
 冷たくて小さな手が俺のポケットの中で縮こまっている。

 うん。なんか気に入ったこの子。