「あがって。
 今は親、仕事でいないから気兼ねしなくていいし。」

 最初の頃に「俺ん家に行く?」って話もあったのに、実家暮らしだったんだ。
 ってどうでもいい感想が頭を巡る。

 先に来ていた浩大たちは黙ったまま待っていた。
 浩大は親しげに話すのに玖美ちゃんが無視してるって感じに見える。

 でもそれよりも千紗は裕が何を話し出すのかの方が気になって、緊張した面持ちで裕を見つめた。

「俺さ。知ってたんだ。
 浩大と玖美が会ってるの。」

 その言葉に玖美ちゃんがハッと息を飲んだのが分かった。

「そんなわけないじゃない。
 私は仁木くんと付き合ってるのよ?
 前に相談に乗ってもらうために1回会っただけで……。」

 今度は千紗が息を飲む番だった。
 付き合って……。
 そっか。そうだったんだ。

 現実の渦に飲み込まれそうで、立っているのがやっとだった。