「どこにも行かないでね。
 私も行かないから。」

 千紗のその可愛らしい言葉にグッと胸が熱くなる。
 千紗の方が俺のこと何も知らなくて、こんなどこのどいつかも分からない奴に……。

 そう思うと申し訳なくなる。

 それでも今ここで言う勇気はなかった。

 それどころか……まだ俺は千紗を…千紗の全部を手に入れたいと思ってる。

「好きだよ。千紗。」

「うん。私も。」

 本当にさっきはもうやめにしようって思ってた。
 それなのに………。
 俺はどんだけガキなんだ。

 でも…………。
 俺の腕の中で、全てを委ねている千紗。

 何も知らない俺を彼氏の浩大よりも信用してアパートに入れてくれた千紗。
 だからこそ大切にしたいという思いもあって、その狭間に揺れる。

「どうして俺はアパートに入れてくれたの?
 俺、思いっきり怪しいでしょ?」

「んー。だって。
 裕は大丈夫って思ったから。」

「ダメでしょ?
 大丈夫じゃなかったんだから。」

 自分で言ってりゃ世話ないわ。
 と、心の中で自嘲する。

「ん?大丈夫でしょ?」

 大丈夫って……。
 だからどこまでお人好しなんだって話。

「ちゃんと大切にしようってしてくれてるの分かるよ。
 裕の優しさがよく分かるもん。
 だから大丈夫。」

 そう言った千紗が胸に顔をうずめる。
 柔らかな髪がくすぐったい。

 俺、優しくなんてない……。

「こんなにかっこよくて……綺麗な指で……色っぽくて、ドキドキするけど。」

「綺麗な……指?」

「うん。
 初めて会った時から綺麗な指だなぁって。
 その指に触れられたと思うと、それだけで恥ずか………し……ちょ、ちょっと裕?」

 千紗は可愛くて……俺、馬鹿だ。

「絶対に千紗を大切にする。
 だから俺のことを……信じてて。」