「ごめん。裕。
 部屋にあげるのはダメだったんだね。
 ごめん。
 でもお願い帰らないで。」

 あんなことされといて、何を寝ぼけたことを言ってるんだよ。

 つかまれた手を振り払おうとしても、千紗は離さなかった。

「離せよ。
 同じことされたいのかよ。
 だいたい震えてるくせに抵抗しろよ。」

 千紗は震えていた。
 たぶん押し倒したくらいからずっと。

 甘えたりできない奴が襲われて抵抗なんてできないよな。
 俺、最低だ。

 でもそれでいい。
 最低で、嫌われればもう会わなくて済む。
 会いたいなんて言われて惑わされなくて済むんだ。

「裕が帰っちゃう方がもっとヤダ。
 帰らないで………。」

 ギューッと心臓を鷲掴みされたように苦しくなる。
 帰らないでなんて、浩大にも同じこと言ったんだろ?

「もう浩大にも甘えられたなら俺は必要ないだろ?
 それとも何か?
 そっちの講習もしてくれとでも………。」

 手をつかんでいた千紗がいつの間にか起き上がっていて、裕にしがみつくように抱きついた。

 な………だからやめろって!!!!!

「私、浩大に甘えれたことないよ?」

「は?」

 何、言って………。

「裕だけだよ。こんなに……。」

「だってさっきまで浩大とここで……。」

 言いかけて吐き気がする。
 ここで、浩大と、ここで………。

「え?
 ………私、部屋にあげたの裕が初めてだよ?」

「は?」