ここじゃなんだからって言う裕の後についてカフェを出る。
 外は木枯らしが吹いていて、思わず身震いしてしまう。

「ほら。まずは「寒いよー。」って言ってくっついてきてみたら?」

「は?」

 何、言ってるのこの人…。
 怪訝な顔を向けると、プッと吹き出された。

「これくらい男友達にもやる奴、いると思うけど?」

 心の中を見透かすような言葉。
 それくらい私にだって分かってる。
 分かってるけど…できたら苦労しない。

「ずいぶん重症だな。」

 呆れ声が聞こえてズキッと胸が痛んだ。

 ずっとそうだった。
 ここで甘えたら可愛いんだろうな。
 って思ったとしたって簡単にはそうはなれない。

 そもそもここで甘えるっていうことを思いつきもしないことの方が多くて、周りの子を見て、あぁ。可愛いなぁってうらやましく思うだけ。

「だって。私には彼氏もいるし。」

 あげくにはこんな可愛くないことを言っちゃう。
 待ち合わせに来てもくれない彼氏なのに。馬鹿みたい。

「別に浮気ってわけじゃないよ。ただ講習を受けるだけ。
 甘え上手になれば彼だって喜ぶと思うよ。
 それにこのままじゃ変われないよ?」

 余裕の態度が憎たらしく思えるけど、裕が言うことはいちいち胸に突き刺さる。

「あの…だって『裕』って名前しか知らないし。」

 はぁ。また私ってば可愛くない。

「ハハッ。そんなの。逆に知らない方がいいんじゃない?
 どこの誰だか知らない方が自分に素直になれるかもよ?」

 そういうものなのかな。
 当たり前みたいに言われて裕が言ってることが正しく思えてきちゃう。

「年齢も…知らないし。」

「んー。それはキミが甘えやすいと思う年齢を設定したらいいんじゃない?」

「設定?」

 本当、何言ってるの?この人。
 さすがにやばい人に思えてきた。