夜、ご機嫌な浩大が家に来てイライラを隠せない。
 それでも浩大は気にしていない。
 浩大は良くも悪くもそういう奴だ。

「今日、遅かったな。
 なんか……いいこと…あったのか?」

 聞かなきゃいいのに、口についた言葉に嫌気がさす。

「あぁ。わりーわりー。
 さっきまで女といてな。
 まだ帰らないでって、ねだるからよー。」

 心の中に苦々しい何かが広がっていく。

 浩大が無造作にかきあげた髪からシャンプーの香りがして、ドクンと胸が波打った。

 良かったんだ。これで。

 最初からそれが目的で、その為の甘え講習だったんだから。
 その甲斐あって千紗も甘えられたんだ。

「泊まりのつもりだったんだけどよー。
 アテが外れてな。
 ま、おかげでいい思いできたんだけど。」

 ご機嫌な浩大の言葉なんて、もう聞きたくもなくて耳に蓋をしておきたい。

「んだよ。
 また俺との予定を変更するつもりかよ。」

「まぁまぁ。
 ちゃんと来てんだから怒るなよ。」

 悪びれないのもいつも通り。
 分かってる。浩大はこういう奴だ。

 もういい。もう忘れよう。