ほっぺにチューしても殴らないって、どこまでお人好しなんだろうな。

 どこまでOKか試してみたいけど…。
 ま、お楽しみは取っておくか。

 さすがに甘え講習って言っておいてなんだからそれっぽいこともしてみるかな。

「じゃ次はなんでもいいから俺に頼んでみろよ。」

「頼むの?」

「そう。ないの?なんか。」

「うーん。」

 本当に甘え下手なんだな。
 別にそっちのお皿取ってとかなんだっていいのに。

「例えば、もう一回チュッってして?とか。」

 そう提案してみれば首をすごい速さで横に振る。
 壊れたオモチャみてー。おもしれー。


「あ…そういえば電球が切れてて。」

「うん。」

「……。いえ。なんでもないです。」

 ハハハッ。なんでそーなるんだよ。
 そこまで言っといて。

 ひとしきり笑うと千紗は居心地が悪そうに下を向いている。

「ったく。練習な。
 電球切れちゃってぇ。替えて欲しいなぁ。
 ほれ。言ってみな。」

「ム、ムリです。
 私にはそんなに可愛い声出せない。」

「おい!
 可愛い声のわけねーだろ。
 さっきから俺のことおちょくってんのかよ。」

 真剣な顔で目に涙を浮かべそうな顔をしている千紗と目があって、正直びびった。
 そんなに難しいこと注文してっかな。

「仕方ねぇなぁ。
 今回だけだかんな。
 何も言わなくても替えてやるよ。」

 ま、甘やかしてやるって言ったしな。
 やる気なく立ち上がると下から小さな声が聞こえた。

「ありがとうございます。」

 ハハッ。
 律儀も相変わらずか。

「なんだか話す度に私への言葉遣いがぞんざいになってません?」

「千紗は敬語になってるけどな。」

 まずったー。
 地が出ちゃってんなー。
 まぁ…変にボロが出るよりいっか。

「俺も千紗といていつも通りでいられるようになったってことだな。」

 からかうのがおもしろいのもあるけど…。
 千紗といると肩肘張らなくていいから楽なんだよな。