「仁木。明日来れねーわ。
 また別の日でいいか?」

 浩大の申し出に俺は別にいいんだけど…千紗に会うのかと一応さぐってみる。

「あぁ。別にいいけど。女と会うのか?」

「まぁな。とびきり可愛い子。」

 …千紗じゃねぇな。
 こいつ、んっとにろくでもねー。

「じゃ、またな。」

 浩大は帰っていった。

 関係ないのに、なんとなくムシャクシャして、携帯を出す。
 スクロールして『千紗』と表示された連絡先を選択した。

 電話の向こう側で少し怯えた声が聞こえる。

「……もしもし?」

 嫌なら出なきゃいいのに。

「今、大丈夫?」

「うん。もう仕事終わったところ…。」

「そっか。
 こっちも終わるから、今から会えない?」

「え!?だって約束は土曜…。」

 律儀な奴。
 その約束は守るつもりだったんだ。

 こんなどこのどいつかも分からないような怪しい奴だぜ。

「いいじゃん。会いたい。」

「…ッ。」

 千紗のことだ。
 電話口で真っ赤になっているのが想像できる。
 その顔が見たくなって電話で言ってしまったことを若干後悔した。

「来てくれなくても昨日のカフェで待ってる。
 俺もあと少ししたら行くから1時間後に。」

「え?…ちょっと!」

 まだ何か言っている電話を強引に切るとカフェに向かった。