「ねぇ。俺に甘え講習受けない?」

「え?」

 小林千紗(こばやし ちさ)の前に現れたのは、長身の男の人。
 切れ長の目で短髪。
 爽やかなスポーツマンって風貌。

 でもこんな人、知らない。

「どなたですか?」

「俺?
 んー。裕って呼んで。」

 くしゃっと顔を崩して笑った顔は少年のようで、不覚にもときめいてしまった。

 裕って名乗ったその人は、私の座っているテーブルに手を置いていて、その指の綺麗さについ見とれてしまいそうになる。

 でも!でも!!
 私は『彼氏』を待ってるの。

「待ってる人、もう来ないんじゃない?」

 心の中を見透かしたようなセリフにズキッとした胸の痛みを感じて前を向けば、勝手に私の前の椅子に座った裕がその綺麗な指でグラスを指さした。

 飲み干したグラスには氷さえも溶けてしまってほとんど残っていない。

「キミには甘えが足りないんだと思うよ。」

「甘え…。」

「自分を変えてみるチャンスだと思うけど。」

「……その話、詳しく教えてください。」

 気づけば、裕の提案に乗っていた。