桑川駅を出ると次に通過する越後寒川駅まで花崗岩性の渓谷『笹川流れ』が続く。

次に停まる勝木駅に着いたのは11時40分だった。
勝木は無人駅で、階段を降りれば直ぐに駅の外だった。

私も佐々木君も秋田からの特急『いなほ8号』には目もくれずに目の前の学校っぽい建物へ歩き出す。

「ここが目的地だよ」

そう言った佐々木君は恐れる気配もなく、『校舎(?)』の中へ入ってゆく。

「ここは昔、中学校だったんだ」

それで合点がいった。
ここは廃校になった中学校を改装した施設なのだ。


佐々木君は受付で大広間の使用料とキャンドル作りの体験料を2人分、払っていた。

2人しかいない大広間で新潟市内から持ってきたものを広げた。

この施設は料理店も併設しているけど、高いのを知っていて買ってきたみたい。

おにぎりとおかずのセットを食べる。
厚焼き玉子と唐揚げが嬉しい。

時間がゆっくり流れるような雰囲気だった。

昼食を食べ終わるとキャンドル作りが始まる。

初めはゼリー状のロウを千切るところから。
ロウをホットプレートで融かしている間にグラスの中へ笹川流れの砂を入れ、芯糸を埋める。

芯糸を埋めてから今川の貝殻を芯糸の周囲に入れた。

ロウが融けるとグラスの中にロウを流し込み、楊枝で表面の泡を潰す。

一通り潰し終ったら、冷やし固める時間に入った。

施設の外に出ると、すぐに八幡橋を渡った。

「ここの辺りは漁村なんだな」
と、佐々木君。

20分程度歩くと勝木に着く前に見た漁港だった。

「ここ、見た覚えがあるけど」

私は彼に抗議する。

それに対して佐々木君は……。

「この漁港からも築地に行く魚が水揚げされるんだよ」

全く意に介していなかった。

直ぐに折り返してこ線橋を渡り、近くの休憩施設へ行く私達。

「ここで温泉に入ろう」

入浴施設の方の入り口から入って入浴料350円を支払い、介護施設寄りのお風呂場へ行く。

「今日は大浴場の方が女湯だってさ。じゃぁ俺、先に小浴場へ入ってるから畳の部屋で待ち合わせな」

「うん、解った」

脱衣所に行くと木製のロッカーがあった。

私は来ていた服を脱ぐ前に鞄を入れ、お風呂セットを取り出した。

湯手とバスタオル、櫛、ハンドクリームあたりは女の子なら当たり前かな?

裸になると見たくないものが嫌でも見えてしまう。

胸は控えめ、ウエストはそこそこ、ヒップは人並み。
ファッションショーに出てくるモデルさんとは似ても似つかない体つき。

下ろすと肩にかかるぐらいの髪が唯一の救いかな?

10人も洗えない洗い場で髪にシャンプーをかけ、手持ちのリンスで髪を整える。

それからボディーソープで体を洗う。

石鹸を流し終えたら内風呂に入る。
あまり温泉という感じはしなかったな。

露天風呂に入るとお湯が程よく温かい。

旅の汗を流すには丁度良かった。

「あれ、美奈子?」

声の主を見てみると……。

「愛華じゃん。どうしてここに?」

「私はあつみ温泉に行く途中で。美奈子は浩二に連れて行かれたんだね」

私の友達、南愛華は佐々木君とも古い関係で、私がどうして勝木なんて辺鄙なところにいるのかも察してくれた。

「佐々木君の癖って昔から?」

「うん。小さいときはよく彼に電車やバスであちこちへ連れていかれたな。お陰で私も時刻表が読めるようになったんだけど。じゃぁ時間があるからまた学校でね」

「うん、また」

温泉には30分ほど浸かった。