お父さんは、クレナイサマのことを気持ち悪いほど信じていた。

そして、クレナイサマのことについてとても詳しかった。

普段からお祭りの儀式の話や、この村にまつわる昔話を、私は嫌というほど聞かされていた。

しかし、全て右耳から左耳へと抜けてしまっていた。


クレナイサマのことについて語っているお父さんは、どこか狂気じみていて、まともに聞くのが怖かったからだ。


でも、こんなことになるなら、少しでも聞いておけばよかった。

手に握った紅花をじっと見つめながら、延々とそんなことを考えていた。


しばらくして、外に異変が起きた。



「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


外にいた見張りの叫び声。

その後にバケツの水をひっくり返したような音がした。


「なに…?どうしたの?」


私は、外に向かって声を掛ける。

返事はない。


何が起きたのか。

そのときの私は、薄々気付いていた。


今まで捧げ者達を殺してきた犯人が来たんだ!


私は、近くにあったクレナイサマの像の後ろに隠れた。