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 机の上に置いてある、ピンクのタイルで出来た小さな置時計を見る。時間は午後10時17分。


 今日は17分、麻生さんと長く居られた。嬉しい!

 
 両手を挙げてベッドに仰向けになって倒れ込む。

 どんな些細な事でも、理奈にとっては幸せに感じる。さっきから理奈の顔は緩みっぱなしだ。

 竹宮理奈、18歳。来年、女子短期大学を受験する高校3年生。

 だが、困った事に数学の成績が少々喜ばしく無い。それを心配した理奈の母が、娘の家庭教師をしてくれる人はいないだろうかと、近所の知人に話を持ちかけたところ、裕弥を紹介して貰ったのだった。

 それで、火曜日と木曜日の週二回、午後8時から10時までの2時間、数学を教えて貰っている。

 当初、家庭教師の話を聞かされた時には、どうにかしてその危機から抜け出そうと頭を悩ませたものだった。

 高校を受験する時期でさえも、塾に行く事を避けたのに、学校以外でも教師を付けて、しかも嫌いな数学を勉強するだなんて、考えただけでも頭が痛くなる程の拒絶感でいっぱいになった。

 勿論、言われるがままに従順になる気にはなれず、必死で抵抗した。しかし理奈が力説した所で、強硬な母が納得する訳も無く、それどころか『そんな事言って、もし受験に失敗したらどうするの! きちんと社会人としてやっていく程の心構えと大勢が整っているとでもいうの!』と、反撃を受け、何も言い返す事が出来ずに見事なまでの敗北に帰した。そして、渋々と当日を迎えたのだった。

 ところが、目の前に現れたのは二つしか歳の違わない爽やかな青年。それに加え、勉強の教え方も親切丁寧ときている。それで会う回数を重ねて行く毎に、自然と、理奈は裕弥に恋心を抱くようになり、今では週二日の裕弥の来る日が待ち遠しくてたまらなかった。


 あぁ、早く、木曜日が来ればいいのに!


 先程まで一緒に居て、今別れたばかりなのに、理奈の心の中は、少しでも裕弥を見ていたいという想いでいっぱいだった。