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 今日は学校の文化祭。何時もより時間を早くして、理奈は美都と共に登校していた。

「できるなら麻生さんと一緒に回りたかったでしょ?」

「そうだねぇー。そしたらどれだけ楽しいだろう…?」

 理奈は手を組んでお祈りのポーズをし、空を見据えて想像を巡らせる。

 理奈達の通っている学校では、風紀が乱れるとの理由で、文化祭の一般公開はしていなかった。参加は校内の教師と生徒だけで行われていた。

「でもその逆は出来るかもね」

「逆?」

「大学の学園祭に理奈が行くの」

「‼?」

 美都の言葉に理奈は目が覚める程の衝撃を受けて目を見開いた。

「そんな事できるの⁉」

 理奈は手を組んだまま美都を見つめる。


 何もそんなに目を輝かせなくても…。


「………」

 理奈の圧に少し退く美都。

「高校生でも行っていいの?」

「いいんじゃない? …判んないけど」


 大学にいる麻生さんを見る事が出来る? 大学祭…なんて素敵なイベントなんだろう…!


 理奈は目を瞑り喜びを噛みしめる。気分は背中に羽が生えて、ふわりと体が浮かんでいる様な心地だ。

「麻生さんに訊いてみたら? 今日、家教の日でしょ?」

「そだね、そだね♪」

 理奈は美都の片手を取って、両手で強く握り

「もし、そうなったら美都も一緒に行こうね。着いて来てね」

 心細さからそう頼んだ。

「やだ、そんなお邪魔はしないよー」

「えー‼ 邪魔じゃない、邪魔じゃない! むしろ、いて欲しい! だって、その日ずっと麻生さんを独占するなんてできないでしょ? 一緒にいてよ」

 もうすっかり裕弥のいる学園祭に行く気満々で、美都の手を握ったまま、満面の笑みでピョンピョン跳ねている。

 その時、理奈のスカートのポケットからキーホルダーが落ちた。

「何か落としたよ」

 美都がそれを拾い上げる。

「きゃーっ、何コレ! すごくカワイイ‼ どこで買ったの?」

 美都がテンションを高くしているのは、奇妙なキャラクターが付いているキーホルダーだった。

「えっと…雑貨屋かな? よく覚えてないんだけど…」

「え? 最近買ったんじゃないの?」

 キーホルダーがあまり汚れていないので、美都はそう思って訊いた。

「………」

 返事に困り、理奈は右手の小指を擦った。それを見て美都が口を開く。

「最近よく、その癖が出るよね」

「え?」

「小指触るの」

 美都に言われて、理奈は少し驚き、自分の手元を見た。

「そう? 自分じゃ気づかなかった…」

「無意識だから癖なんでしょ」

 美都は持っていたキーホルダーを理奈に渡しながら言った。

「あ…そっか…。でも、そう言われてみれば、つい、寂しくて触ってるかも…」

 理奈は首を傾げ少し困った様な顔で笑う。

「小指が寂しい? 何それ?」

 理奈の不可解な言葉に、美都は呆れた顔をする。


 なんだろう? なんで今、寂しいって言ったんだろ? あれ??









 少し離れた場所で、二人の様子を窺っている者がいた。一通り会話を聞き終わると、少し間を置いてから、思い立った様にその場を離れた。

 不図、理奈は後ろを振り返り、足を止める。

 背中を向けて反対側へと歩いて行く人物に目が止まった。その者は、全身黒ずくめで独特な服装をしていた。


 なんだろ? 何かの制服かな?


 相手の着ている、四つに分かれた上着の裾が、風に靡いてひらひらと揺れるのに、理奈は見入っていた。

「理奈!」

 構わず先を歩いていた美都に呼ばれて我に返り、理奈は慌てて美都の後を追っかける。







 十一月の白く煌く柔らかな陽の光は、心を躍らせている理奈達と、何時もと変わらぬこの情景を、淡く包み込んだ。








                     ✦  ✴  ✷   END。