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 理奈は悠の言葉を思い出していた。

『オレだったら“予定外の者”かな。決められた道を歩くなんて面白くないじゃん。それより自分で道を切り開く方がカッコイイと思わない? だからオレはその人と一緒になって未来を創る事を選ぶよ』

 理奈が赤い糸の事を最初に相談した日に、悠が笑顔で言った言葉だった。楽観的な悠らしい言葉が、今の理奈には共感できた。

 もし自分に未来を変える程の権利があるとすれば、その誘発に乗ってみようではないか。道を外して来た予定外の者と一緒になって、未来を切り開くのも良いかもしれない。それが真実の愛になるならば、どんな困難にも打ち勝つ事が出来るだろう。きっと幸せな人生に辿り着けると信じたい。

 そして頑なに心を閉ざすa2に、自分が選択した相手が間違っていなかったと、教示したいと思った。

 理奈はその決意した答えを言って聞かせた。

「予定外の者を選ぶ」

「………」

 理奈の答えにa2は一瞬躊躇した。理奈はその事に気づかない。

「…本当にそれで後悔しないか?」

「しない」

 相手が誰か判らないので、後悔するかどうかの判断も出来ない。もう自分の心に決めてしまった。理奈の意思は揺るぎなかった。その眼には迷いの光は無い。

「判った」

 a2は直ぐに気持ちを切り替える。既に頭の中は相手を斬る事に意識が行っていた。

 a2は椅子から立ち上がると、理奈に渡した指輪を外す様に言い、それを受け取る。 そして踵を返してドアへと向かった。
 
 着ている上着の裾が金魚の尾の様にひらひらと揺れるのに、理奈は目を奪われていた。