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 決断を下す時が近づいていた。理奈の気持ちとは全く無関係に、選択によって永遠の別れをしなければならない。失う事がどんなに辛いのかさえも知らされないまま、日常へと溶け込んで行くのだ。

 今はまるで、暗くて深い水の中を、小さな泡を立てながらゆらゆらと沈んで行く賽の如く、その者達の運命が静かにその時を待っていた。





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 土曜日。


 今月、短期大学の推薦入試を受ける事となった理奈。入試の内容が書類審査、小論文、面接となっていて、学力試験が無い事で少しだけ安堵できた。勿論成績を下げない様にこれからも勉強を頑張るつもりではいる。が、少しなら許されるだろうと、昼食を終え、暇を持て余していた理奈は、部屋でベッドに寝転び、占い雑誌を捲っていた。

 足をバタつかせながら鼻歌を歌っていると、部屋の隅から冷たい空気が入って来る気がして後ろを振り向く。

 理奈は驚き表情が固まる。

 そこには初めて見た時と同じ、黒ずくめの出で立ちで、ドアの前に立っているa2の姿があった。

 冷艶な光を瞳に浮かべながら、鋭い視線を真っ直ぐに理奈へと向けている。美しく潤いのあるその唇は、理奈にとって非情な言葉を齎す。

「待たせたな。さぁ、答えを聞かせてもらおうか」



 悠の部屋を去ってから四日後の事だった。