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 a2が目を覚ましたのは、治療が終わった後のベッドの上だった。辺り一面真っ白で扉だけがガラスで出来た部屋に、a2が身を沈めているベッドが置かれていた。

 a2の白い肌は灯りによって反射していた。それで、身体が空間に浮光しているかのように映り、今にも周りに同化して消えてしまいそうだ。その姿は、まるで映画の一場面の、王子様の口づけで目覚める事を待つ、果敢無く美しい姫君を思わせる。

《気がついた?》

 部屋に艶のある声が響く。その声の持ち主を探そうと視線を動かした。すると部屋の天井の隅に監視カメラが設置されている。どうやら声は、そのカメラの許に取り付けられたスピーカーから聞こえてくるようだ。

 a2は再び目を閉じて、その声に耳を傾けた。

《ここに運ばれる時の事は覚えているかしら? 一般人が発見して救急車に連絡されなくて良かったわ。J168が貴方をここまで運んでくれたのよ。後でお礼を言っておかなくちゃね。
 負傷した箇所は三箇所、右手の薬指の罅。小指の骨折。右肋骨の骨折。後は多少の擦過傷。脳に異常は無かったから心配しないで。それと少し風邪を引いているみたいね、扁桃腺が炎症を起こして発熱があるわ。暫くはここで大人しくしていた方がいいわね。》

 そう説明され、見ると右手の薬指と小指は副木と共に二本が一緒に包帯で巻かれており、胸にはコルセットが着けられていた。あちこち擦り剥いた所にガーゼも当てられている。

 a2の頭に直ぐさま任務の事が浮ぶ。

「今、何時?」

《午前11時だけど?》

「暫くってどの位?」

《そうね…本当は二週間と言いたいところだけど、最低でも一週間はここで安静にしていた方がいいわね。動けない間は筋力も弱まるから、その後のリハビリも大切よ》

 
 とんでもない! そんなに休めば任務を降ろされてしまう。ペナルティを科せられるかも…。そんなに時間を掛けている暇は無い、早くここを出なければ…。


 a2の胸の奥に焦りの染みが広がって行く。

 だが今のa2には押し切って行動を取る程の力は残っておらず、只そこに仰向けになって静聴しているしかなかった。

《もうすぐ昼食だけど食欲はあるかしら?》

「………」

《不規則な食生活を送っていたでしょ? 食欲が無いのは判るけど、体力をつける為にも食事は摂取した方が良いわね。ここなら貴方に不足している栄養分を考慮してそれを食事で補う事が出来るわ。無理にとは言わないけど、早く復帰したければ、きちんとした食事を取る事をお薦めするわ》

 鎮痛剤が作用しているのか、頭の中がじんわり痺れているような感覚がしていた。

「…いえ、今は食欲が無いので。暫く眠ります」

 そう言ってa2は再び堅く目を閉じた。