3


 a2は選択者の家族、学校、アルバイト先、住んでいるアパートの周辺住民のどこから調査し始めるかを考えていた。

 辺りは静まり返って人影も無く、まだ空には星が輝きを放っていた。体を休める為、一度は自分の部屋に戻ったのだが、仕事の事が気になり、僅かな睡眠を取っただけで、また選択者の部屋へと訪れたのだった。だが、やはりまだ彼は帰宅しておらず、それで一呼吸置こうと喫茶店へ向かっている途中であった。

 冷たい風が身を覆い、a2の足を止めさせる。背中から風を受けて、耐えるのに、自然と腕組みをして猫背になる。

 忙しい毎日に、ここの所の気温の変化が影響して、体調は芳しくなかった。温かい物でも飲んで気を落ち着かせようと、また歩き出す。

 とその時、曲がり角から黒い大型バイクが現れ、a2に向かって突進してきた。a2は反射的に身を捩らせ、バイクとの衝突を避けようとするが避けきれず、相手と接触し、その勢いに体のバランスを崩し、コンクリートに強打した。

 バイクはバランスを失い左右に大きく蛇行し、左に傾くと、火花を散らしながら地面を滑った後、停止した。運転していた者は、後ろを振り返り倒れているa2を目にすると、怯えた腰つきで辺りを見回し、誰もいない事を確認すると、慌ててバイクを起こしてそのまま発進して行った。

 その場はまた何も無かったかのように静まり返り、道路脇に残されたa2は、暗闇に同化して気配が消えていた。

 美しい顔を歪ませ、その顔からはうっすらと汗が滲み出る。息苦しくて呼吸をする度に胸に激痛が走る。先程コンクリートに叩きつけられた瞬間、鈍い音が体に響いたのに原因はあった。

「痛っ…」

 体を起こそうとするが痛みで体に力が入らない。支えようとした右手にも異変がある事に気づく。a2は無力にその場に横たわっているしかなかった。

 すると運良くそこへ車が通りかかり、ライトに照らされてa2の姿が浮かび上がった。それで運転手は車から出て来てa2の許へと走り寄る。

「おい! どうした! おまえ…何があった?」

 見るとそれは同じディスポーザーのJ168だった。

 青ざめて脂汗をかいているa2を目にして、J168は慌ててa2の体を抱き起こした。

「痛っ…」

 a2が左手で胸を押さえる。それに気づきJ168は慎重に自分の肩にa2の頭を凭れさせ、体に負担を与えないようにしっかりと支えた。

「何があった?」

「バイクと…接触した…」

 J168の呼びかけに、a2は息も絶え絶えに答える。

「判った。しっかりしろ! 直ぐに医療部へ連れて行ってやるからな!」

 その言葉に安心したのか、a2は僅かに頷いたかと思うと目を瞑り、そのまま気を失ってしまった。

 J168は軽々とa2を抱え上げると、慎重に車の後部座席まで運び、急いで付属するセンター内の医療部へと車を走らせた。