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 昼休み、美都は理奈の手を引っ張って、図書室へと連れてきた。

「ほら、そんな暗い顔してないで、少しは頭を休めた方が良いよ。ここにある本でも読んで気分転換して。もしかしたらこの中に赤い糸の答えを出すヒントになる物があるかもよ」

 そう言って理奈の肩を軽く叩き、本棚へと勧める。

 図書室へ来たのは、気分転換を図る為に来たのでは無い事を、理奈には判っていた。本当の理由は、今日新刊が入る為、美都自身が来たかっただけなのだ。それを証拠に、早速美都は入ったばかりの新刊をチェックしている。

 気は進まないが、仕方ないので、理奈もその辺にある本棚に目をやる。するとそこには、幼い頃に読んだ事のある童話など、懐かしい本が並んでいた。


 へぇ、高校の図書室にもこういうの置いてあるんだ。
 あっ、思い出すなぁ…。これ好きでよく読んでた本だ。これも…、昔、家にあったやつ。


 本の背表紙を指でなぞりながら、懐かしい記憶が甦る。


 そういえばあの頃、町の図書館へ行って、ハルと一緒に紙芝居とか見てたっけ。


 シンデレラを手に取り、ペラペラと中のページを捲る。幼稚園から帰って、悠と一緒に母親に連れられ、図書館に通っていた時の事を思い出す。

 図書館の一角に児童コーナーがあり、そこで一番のお気に入りの舞踏会のページを開いて、理奈が片方の靴を脱ぎ、その片方を悠が手に持って、シンデレラごっこをよくしていたものだ。

『しんれれら、きみがぼくのさがしていたおひめさまだ。ぼくとけっこんしてくだたい』

『ありがとう。おーじさま』

 悠が理奈に靴を履かせ、そのお礼に理奈が悠に抱きつく。

『はるね、りなだいしゅきっ! はる、おーきくなったら、りなとけっこんしゅるね』

『りなもはるかだいすきっ! りなもはるかとけっこんする。おーきくなっても、りなとはるかいっしょだね』

『いっしょ!』

 微笑ましい幼少の頃を思い出して、念わずプッと吹き出す。


 ああいう頃もあったなぁ…。純真で可愛かったよね。何をするにも一緒で、本当にずっと一緒にいられると信じてたっけ。まぁ、今でも同じ高校だから、ずっと一緒にいてるわけだけど…。あんなに可愛かったハルが、今では女ったらしになっちゃって、人間どう変わるか判らないものだね。


 理奈は悟ったように悠の事を非難する。そして持っていたシンデレラの本を閉じて、元のあった棚へと戻した。