顔を洗い、簡単に化粧をし、朝食を作った。いつも昼過ぎまで起きてこない真紘の分まで多めに用意する。

昨日の残った味噌汁を温め、炊飯器からご飯をよそった。冷蔵庫に残った野菜と冷凍しておいた豚肉を炒め、適当な調味料を加える。大学生活四年間で得た、「ありあわせで料理する」という特技を、誰かが褒めてくれるわけではない。


でもきっとどこかで役に立つ。そんな気がする。


大学生活最後の夏休み。とは言っても、周りの友人はみんな就活中で、夏を謳歌する余裕なんてない。

私はというと、みんなのように、大手に就職を目指しているわけでもなく、生活に困らない程度に給料をもらえれば良かったので、地元の広島に本社を構える、小さな文房具会社の内定をもらい、そのままそこに落ち着くことにした。

地元に戻るつもりはあまりなかったが、自分の病気について打ち明けた際、特に騒ぎ立てすることなく、「できる範囲でやってくれればいいから」と理解を示してくれたことが、そこに決めたもっとも大きな理由だった。


病気といっても、昔から軽い睡眠障害があるだけで、困っていることといえば毎晩薬を飲む手間と、夜更かしができないことくらいだけど。