「…あの、松下くん」



『その肩をどけて欲しい』
その意味を込めて彼の名前を呼ぶと、彼は「ん?」とだけ声を出す。



「そろそろ…」


「帰さないよ?」


「えっ……」


なぜだ!
どうしたって言うんだ松下くん!


こういう免疫がない私にとって、こんなよくわからないドキドキする時間は苦手なのだ。


いつもみたいに「祐実オバ」なんて呼んで私を追い返してよ。


手に汗をかきはじめて、そろそろ限界。



「…祐実こう言うのダメ?」


「へ?…いや、えっと…」


「その顔、やっぱり苦手なんだ」


松下くんが私の肩から頭をあげて、今度はこちらをジッと見て話すので、目のやり場に困る。


どうしよう。


なんで突然こんなことになってしまったんだろうか。


私はただ、勉強を教えたかっただけなのに。


今ここにいる松下くんは、いつもの悪態ばかりつく松下くんじゃなくて、完全に甘え上手のレベルがアップした彼だ。



「勉強頑張ったからご褒美だよ」


「まだテスト受けてないのに…」


「細かいことは気にしない気にしない」


っ?!


ギュッ


松下くんはそう言うと、また私の肩に頭を置いて、今度は私の手を握り出した。


ううっ。


「こう言うのには慣れておいた方がいいよ」


「…っ」




胸のドキドキに気がとられて、あまりうまくしゃべれなくなった私は、結局それから松下くんが寝るまで、彼の隣で彼の体温を感じていた。