緋山君は悪い人じゃないと思った途端、他の人よりも目を合わせようとすることが出来るようになった。
握手に関してもそう。
緋山君がいなかったら練習なんてできないし、今後誰とも触れないようになっていたかもしれない。
だから、今のありがとうは色々な意味を込めた。
きっと、緋山君は料理のこととしか捉えてないと思うけど。

「あのね、相談したいことあるって言ってたよね、私。」
「うん。」
「それ、眞白先輩の事なんだ。」
「へぇ、何を相談したいの?」
「眞白先輩は、風邪なんかじゃないんだ。」
言っていいことかわからないけど………、と付け足して話す。

「眞白先輩はああやって明るく対応してるけど本当は泣きたいはずなんだ。1度、隠れて部室で泣いてるところ見ちゃって……。」
「眞白先輩の友達から聞いたことだけど、眞白先輩は家族のためにお金が必要だったみたいなの。」
「今はもう必要なくなってたらしいけど、今でもその時にお金を稼ぐのを協力してくれた人が付きまとって、月に1週間その人の下で働かされてるみたいなの。」
「全部、眞白先輩の友達から聞いた噂話だけど……。何故か信憑性があるの。」

先輩の友達から聞いたこと。
噂話だけどその話を聞いていた先輩がすごく傷ついた顔をしていたのを今でも鮮明に覚えている。